少し前、春頃の話になりますが、お客様から切り抜いた読売新聞の新聞記事を送っていただきました。
同封されていた手紙には、「きっと(京都おはし工房さん)の仕事だと思いますが」という文章と、【亡き息子 みかんの木・箸に】と書かれた新聞記事が同封されていました。確かに、この記事に乗っている御箸は当店で製作した物です。

2年ほど前に遡りますが、大きな蜜柑の木の切り株を持って来られて、この木材で御箸と写真立てを作ってもらえないかという御依頼でした。当方、箸を作るのは専門ですが写真立て等は専門外ですので、「どこか家具などを制作している木工所などに頼まれてはどうですか」と一度はお断りしたのですが、いろんなところに制作を依頼しても全て断られて困った末に当店に来られたようです。
色々と話を伺っていくうちに、この蜜柑の木材は昔の脱線事故で無くなられた息子さんの思い出が詰まった、大切な形見の木であるという話を聞かせてもらいました。そういう事情なら、無下に断るわけにもいかず、こちらもできる限りのご協力はさせていただきますという話に落ち着き、蜜柑の木材を預からせてもらう事になりました。
その後、1年ほどかけてしっかり乾燥させてから、板材に挽いたところ、切断した断面にはまるで黒柿のような美しい茶褐色の杢がきれいに入っていて、そのまま立てかけておくだけでも十分オブジェとしても飾っておけるレベルの美しい板材が5枚取れました。そのうち特に杢の綺麗な2枚は、「写真立て」と、立てかける「オブジェ」に加工し、残った材から「御箸」と「箸置き」を作らせてもらいました。
そして、この春にようやく「写真立て」「御箸」「箸置き」「オブジェ」が完成し、納品させていただきました。その際に御両親様とは直接お会いできなかったのですが、届けていただいたクライアント様からの話では「たいそう喜んでいただけました」との御報告をいただき、安堵した次第です。
それから暫くして今回、他のお客様から新聞記事を届けていただいた話に戻りますが、記事の写真を見せてもらって、御両親が喜んでおられる姿をしっかりと拝見できて本当にうれしく思います。現世におられる御両親と天国におられる息子さん、住んでいる世界が違うため直接お会いする事は出来なくても、せめてかけがえのないお食事の時だけは、次元を超えて共に同じ時間を共有できる架け橋として、この蜜柑の御箸が現世と天国とをつなぐ架け箸となってくれることを切に願います。
今回素晴らしい仕事を御依頼いただいたクライアント様と、新聞記事を送っていただいたお客様に深く深く感謝致します。